スターベース東京のブログ

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AR(拡張現実)多機能デジタルファインダー!?「アストロイド」を使ってみました

筆者(スタッフS)は自宅からの天体写真撮影にタカハシ90S赤道儀(非自動導入機)を使っています。思い入れのある赤道儀なのでこれからもずっと使い続けるつもりではありますが、Mewlon180C + Mフラットナーレデューサー + ZWO ASI294MM Pro のメイン撮影システムでは画角がわずか0.31度×0.21度となり、天体の導入になかなか時間が掛かってしまいます。ファインダーで直に見えたり、目立つ星の並びを追いかける「スターホッピング」で導入できる対象ならば良いのですが、市街地ではそれが通用しないケースも多くあります。そのような場合、これまではあらかじめ近くの明るい恒星と目標天体との座標を調べておき目盛り環を使って導入していましたが、目盛り環の最小目盛りは2度(赤緯)/2.5度(赤経)なので、正直、このような長焦点撮影では結構キツイです。

同じように天体写真撮影で自動導入ではない架台をお使いの方も、多くいらっしゃるのではないでしょうか。

 

そんな方にオススメ!な素敵な新製品がオーストラリアのDynamicDeepSKY社から発売になります。名前は「Astroid」(アストロイド)です。

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本体とファインダー規格アリガタ。(いずれも試作品)

今回その試作品をお借りすることができましたので、この記事でその魅力をお伝えしていきたいと思います。なるべく分かりやすくするために画像をたくさん入れました。読み込みが遅くなってしまったらすみません…。

※今回の画像はPCで操作したものですが、スマホでもレイアウトはほぼ同様です。

※製品版とは一部仕様が異なるかもしれません。

 

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アストロイドは一言で表すと【PCやスマホで無線操作するデジタルファインダー】です。電源に接続するとWi-Fi通信ができるようになり、PCやスマホタブレット等から操作します。

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電源はUSB Type-C(5V)です。市販のモバイルバッテリー等から給電できます。アストロイド本体には、基本的にはこの1本のケーブルしか接続しません。

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鏡筒への同架例。ここでは電源ケーブルを画面外へ伸ばしていますが、モバイルバッテリーごと鏡筒に載せてしまえばシンプルになりますね。

 

Wi-Fiのネットワーク名(SSID)は「DDS_DIRECT」です。

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iPhoneの画面です


接続には定められた初期パスワードが必要です(製品版でご案内予定です)。接続ができたらウェブブラウザで「10.10.10.10」と入力します。これでアストロイドの操作画面が表示されます。(事前にアプリ等のインストールは不要です)

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PCの画面です

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こちらが初期画面です。ご覧のとおり、かなりの広角で夜空が写せます。これだけ画角が広いので、アストロイドの取り付けはメインの望遠鏡とおおまかに方向が合っていさえすれば全く問題ありません。ファインダー調整が不要なので気楽ですね。この時はメイン鏡筒(M-180C)の下に吊り下げる格好で取り付けていたので画像がさかさまですが、これはこの後「イメージ反転」ボタンが表示されるのでそこで簡単に補正できます。

 

さて、まずは上画像の赤矢印で示した下側の2つのアイコンに注目します。

・左側の設定アイコンをクリックすると画面右上に設定ウィンドウが出ます。ここでは明るさや露出時間を設定できます。明るさを設定するとその下のゲインが自動的に最適値に変更されます。明るさは画面上で星が見やすい程度にすれば良いと思います。露出時間は0.5秒くらいでOKでした。0.5秒に設定すると、ここから先の画面は1秒間に2コマのペースでほぼリアルタイムで更新されます。

・ここでアストロイド本体の対物レンズを手で回して回転させ、星にピントを合わせます。

・右側の眼のアイコンをクリックすると向き解析(プレートソルブ)が始まります。この時は10秒ほど待ったところで解析が完了し、星ぼしに名前が自動で添えられました。眼のアイコンをクリックした際、ご覧のように下部メニューが一気に増えます。

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画面右側には+と-のズームボタンがあります。これを押すと画像サイズを変更できます。下は+を何回か押して拡大させたものです。(設定アイコンも押して右上の画面を非表示にしています)

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次に「ファインダー合わせ」を行います。アストロイドの画角はかなり広いので、メイン鏡筒の向いている方向が画角のどこかに写っていればOK…という非常にざっくりした取付で大丈夫でした。(端っこよりも画面中央付近に写っていた方が気持ち的には安心ですが…。)この段階では「メイン鏡筒が向いているのはアストロイドの写野のどの位置か」を教え込みます。この時はメイン鏡筒をシリウスに向けていましたので、画面上で「Sirius」と振られている星(プレートソルブが成功しているのでたしかにシリウスです)の位置を教える必要があります。下部アイコンの電源マークから右に6番目、○に+字のアイコンをクリックします。

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すると上のような画面になります。左下に緑色のマークが出ています。これを使って「ファインダー合わせ」をしていきます。緑色マークの真ん中の●をつかんで動かすと…↓↓↓

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このようにセンターを示す赤マークが連動して動きます。画面右側のズーム機能とこの緑マークを使って、メイン鏡筒が向いている方向に正しく赤マークを合わせます。これができたら再び下部アイコンをクリックします。これで「ファインダー合わせ」が完了です。それではこれから天体導入をしていきましょう!

 

 

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画面下部の「星を検索」アイコンをクリックします。すると画面左上に検索ウィンドウが出てきます。ここに天体名称や、番号が振られている場合には番号を入力します。上の画像では「M42」と打ち込んでいますが、今回の試作品では「42」と打つ必要がありました。するとM42やNGC42、IC42などがヒットしますので、目当てのM42を選択します。(この画面は後ほどご紹介します)

 

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するとこのような画面になります。現在の向きと目標天体の位置、導入に必要な移動量が表示されています。左下の赤字を読むと、あと右側に26.35度、上に7.309度動かせば良い…ということですね。分かりやすいです。

 

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筒先を目標の方向に近づけていくと(ここでは露出時間0.5秒にしていたので1秒に2コマのペースで)ほぼリアルタイムで画面に反映されます。対象が近づくと画面が自動的に拡大されて細かい調整を行いやすくなります。さらに近づけていくと↓↓↓

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このように画面左上に微調整用ウィンドウが追加されます。光学式のファインダーに近いレイアウトです。ここから先はこのウィンドウと、左下の赤字の補正量を見ながら追い込んでいくのが良いでしょう。ぴったり合わせられると↓↓↓

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このようになります。誤差0.4分角(土星の本体直径くらい)となっていますが、この程度であれば全く問題になりません。これで導入が完了です。念のためメイン鏡筒に取り付けたカメラの画像も見てみましょう。

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目標天体は「M42」でしたからピッタリですね。もっと視直径の小さな天体のほうが精度確認には良かったです…このあとやります。

 

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それではNGC2371に筒先を向けてみましょう。ふたご座の惑星状星雲です。これは6×30ファインダーではまず見えません。今回はメイン鏡筒は一切見ずに、ただアストロイドの画面だけを見ながら導入をしてみました。

※先ほどの補足です。上画面では「2371」で検索を掛けたので、他にも2371という文字列を含む天体たちがヒットしています。それらは検索結果を左右にスワイプすれば出てきます。

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導入完了ということになりました。それではメインカメラの方を見てみましょう。↓↓↓

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ゲイン最大、1コマ15秒のプレビュー画面で写っていることが確認できました!(中央少し上です)換算焦点距離約3500mmの長焦点でこれだけの精度で導入ができれば完璧ではないかと思います。アストロイドはこのような非自動導入架台での天体導入に大きな力を発揮してくれます。

 

 

 

【補足:使用可能な空の明るさについて】

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DynamicDeepSKY社のwebページ(https://www.dynamicdeepsky.com/astroid)よりキャプチャ

DynamicDeepSKY社の公開している参考動画ではプレビュー画面に天の川がはっきり写っています(!)羨ましいです… しかし日本の都市部などではこんなに多くの星が写りませんから、位置解析(プレートソルブ)の難易度は高くなっているはずです。今回のテストは神奈川県川崎市の光害地で行ったのですが、冬の夜空(1-2等星が多い)では全く問題なくプレートソルブが成功しました。それではもっとキビシイ条件ではどうでしょうか…?

 

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春の星空です。星が少ないですね…30秒くらい考えていましたが↓↓↓

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成功しました!

 

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もっと厳しいテストです。先ほどの方向からやや地面側に振り、地上景を多く入れると…↓↓↓

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失敗!実際とは異なる空域が表示されてしまいダメでした。このあたりが限界のようです。とはいえ、アストロイドは広角レンズを搭載しており、街明かりが強くても広範囲から基準星を探してこれるので、かなり健闘しているのではないかと思います!

 

 

 

【補足2】極軸合わせ支援機能について

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下部の「望遠鏡」アイコンを押すと極軸合わせ支援ができます。プレートソルブ機能を使って、赤経軸だけを回転させながら3度空を認識させるだけで、極軸のずれ量が分かるという便利なものです。やってみましょう。

 

まずは東の空に向けます。星が認識されるまで10-20秒ほど待ちます。

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すると赤字の「お待ちください」が緑色で「次へ」になります。そうしたら赤経軸を西側へ30度ほど回転させ、再び10-20秒ほど待ちます。

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2度めのプレートソルブが完了した状態です。さらに30度ほど西側へ振り、また待ちます。

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プレートソルブが完了しました。そして「次へ」を押すと↓↓↓

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極軸合わせをしてください…というメッセージが表示されます。「完了」を押します。

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すると、現在のアストロイドのプレビューしている空の情報を元に、北極星付近の星図が仮想的に表示されます。ここには天の北極と赤道儀の極軸の指す向きが表示されていて、これらを一致させれば極軸合わせが完了ということになります。補正量はここでも画面左下に表示されています。今回は露出時間0.5秒でしたので、ここでも1秒に2コマ、ほぼリアルタイムで情報が更新されます。

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極軸合わせが完了しました。本当に合っているかは南向きベランダなので分かりません。なのでオートガイド(PHD2 Guiding)を併用して追尾テストを行いました。その結果がこちら↓↓↓

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赤緯軸のガイド信号が一方向のみに出ているので、極軸合わせは少しずれが残っているようです。しかし結果としてこのように星を点に出来ることが分かりましたので、オートガイドを併用する天体写真撮影であれば実用上は問題ないレベルで調整できていると思います。

 

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今回は非自動導入赤道儀での天体写真撮影を念頭に置いてご紹介しましたが、他にも非自動導入の架台はいろいろあります。ドブソニアン、経緯台などでの星空観察に対しても、アストロイドはきっと活躍できることと思います。ただし1つだけ注意点があります。

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取り付け位置についてです。アストロイドのレンズは広角なので、屈折望遠鏡のファインダー位置などに取り付けるとメイン鏡筒自身がアストロイドの写野を遮ってしまいます。できるだけ鏡筒前方に取り付けて写野を広く確保するか、「ファインダー合わせ」が画面内のどこでもできる特性を活かして(何らかのアダプターで)メイン鏡筒よりやや上方に傾けて取り付ける等の工夫が必要です。上画像くらいの位置関係であれば問題なさそうです。

 

発売はもう少し先だそうです。続報にぜひご期待ください!!