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【ZWOのカラー冷却CMOSカメラ】 機種ごとの特徴・選び方のご紹介です

こちらの記事ではZWO社の冷却CMOSカメラについて、現在(2022/03)取り扱いのある機種の一覧と、それぞれの(スタッフの思う)オススメポイントをご紹介します。文字が多く長めの記事となりますがよろしくお願いします。

 

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この記事をご覧いただいている皆様は、すでに冷却CMOSカメラをお使いでしょうか?街中でもよく見かけるデジタル一眼レフカメラとは操作インタフェースが大きく異なっているので、「扱いにくそう」という印象をお持ちの方も多いのではないかと思います。一方で、天体写真が好きな方々は、冷却CMOSカメラで撮影された天体写真を見る機会がかなり多くなってきているのではないでしょうか。

背景として、以前はCMOSセンサーではなくCCDセンサーが利用されていたり、一眼レフカメラに冷却装置をつけるような改造を施す、といったことが主流だったのですが、冷却CCDカメラや改造に必要な費用がかなり高額になってしまうこともあり、なかなか多くのお客様へ浸透するには至りませんでした。しかし、現在ではCMOSイメージセンサーの主流になってきたことによって、天体用冷却カメラの価格は以前よりもかなりお求めやすくなりました。

では、そもそもなぜ天体写真に冷却カメラを利用するのかというと、①センサーを冷却することで撮影時に発生する(熱に起因する)ノイズが減少すること、②センサーの温度を一定に保つことによって正確なダークノイズ減算が可能となること、③デジタル一眼レフカメラに備わっている固有の画像処理エンジンを通さない、受光に対する素直な応答としての画像を得られること、などが挙げられるかと思います。特にDSO撮影の際には②や③の事項に関して、通常のデジタル一眼レフカメラでは基本的に絶対に実現できない、非常に大きなメリットを享受することができます。

 

では前置きはこれくらいにして、実際の冷却CMOSカメラの紹介をいたします。

市販の冷却CMOSカメラにはカラーカメラとモノクロカメラがありますが、カラーカメラの長所はなんといってもフィルター交換の手間を省けることにあります。モノクロカメラでカラー画像を得るためには、複数のフィルターを使ってそれぞれ撮影した画像に色を割り振って合成する必要がありますが、カラーカメラであれば最初からカラー画像が生成されますので、そのあたりがとっても楽です。

・たまにしか遠征できないので現地で苦労したくない

・まずはセンサーを冷却できるメリットがあれば十分

という場合にはお勧めです。ただし、カラーカメラではすでに各画素にRGBの色が割り振られていますから、例えばSAO合成(いわゆるハッブルパレット)のように、通常の可視光の色合いから大きく外れた画表現は苦手です。またεシリーズのようにFが極めて明るかったり、FSQシリーズのような小口径でシャープな鏡筒と組み合わせる場合は、モノクロカメラのほうが高解像度な結果を得やすくなります。

 

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ZWO社のラインアップを見てみましょう。

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現在のZWO社冷却CMOSカラーカメラのラインアップ

 

センサーサイズの小さい方から、それぞれの特長とお勧めポイントをご紹介します。

 

A.    ASI183MC Pro / 税込104,600円
センサーが小さいために他のカメラよりもクローズアップ撮影の効果があり、たとえばFS-60CB + レデューサーC0.72×(焦点距離255mm)と組み合わせるとアンドロメダ銀河が対角いっぱいに写ります。このようにカメラレンズや小型の屈折望遠鏡、εシリーズ鏡筒などを使って主要な銀河や星雲を大写しにしたいような場合に活躍します。各ピクセルが極めて狭い間隔で配置されているので画素数Canon EOS6D(フルサイズ一眼レフ)とほぼ同じくらいあり、これはA3プリントでも十分鑑賞できるほどです。ただし各ピクセルが小さい=ピクセルごとの受光面積が小さいので、Fが暗くて長焦点のシュミットカセグレンなどよりもFの明るい短焦点εシリーズなどのほうが(センサーへ届く光の密度が高くなるので)相性が良いと言えます。
<こんな方にオススメ>
・カメラレンズ / 小型屈折望遠鏡 / εシリーズなどで、主要な天体をクローズアップで高精細に撮影したい

 


B.    ASI533MC Pro /税込117,700円
正方形センサーを採用したユニークなカメラです。ピークQEは80%で、これはカラーカメラとしてはセンサー感度が優秀であることを示しています。上のASI183MC Proとはセンサー形状は異なりますが面積は同程度です。ASI183MC Proと比べると画素数がやや控えめ(各辺3008ピクセル)で、大伸ばしプリントよりはPCやスマホの画面で表示させるのに向いているスペックです。が、その分1つひとつのピクセルにはたくさんの光が届きますので、例えばF7-8前後の屈折望遠鏡などで淡い星雲のクローズアップ撮影に用いたり、F10前後のカセグレン式鏡筒で系外銀河を狙ったりするのには向いています。画素数が少なめ(約905万画素)なのでPCへの負荷も少なく、多数枚コンポジットなどの画像処理を進めやすいのも魅力です。
<こんな方にオススメ>
屈折望遠鏡やFの暗いカセグレン式鏡筒などで、見かけの小さい天体を大写しにしたい

 


C.    ASI294MC Pro / 税込130,799円

ZWOのカラー冷却CMOSカメラでは現状で唯一マイクロフォーサーズセンサーを搭載した製品です。広いダイナミックレンジを有しています。APS-Cやフルサイズの大センサーモデルよりもお求めやすい価格が魅力です(フィルターも2”/50.8mmではなく1.25”/31.7mmサイズで十分ですのでこのあたりも安価にできます)。短焦点の鏡筒と組み合わせてメジャー天体を大写しにするのにも、長焦点のカセグレン式鏡筒と組み合わせて見かけの小さな天体をクローズアップ撮影するのにも使いやすく、総合的にとてもバランスの取れた製品です。
<こんな方にオススメ>
・さまざまな面で使いやすい、バランスの良い機種で冷却デビューしてみたい

 

★システムチャート★

ここまでの3機種のシステムチャートとオプションパーツのご紹介です。

ZWO ASI183MC / 533MC / 294MC のシステムチャート

■これらの機種は、標準状態では可視光の外側の波長も取り入れてしまいますので、通常のカラー画像を撮影する場合でも「IR/UVカットフィルター」をご利用ください。特別な理由がない限りノーフィルターで使うことは無いと思います。

 

■フィルターの取付方法はさまざまにありますが、

1枚だけ(たとえばIR/UVカットフィルターだけ等)をつけっぱなしでよい場合はセンサー保護ガラスの直前に31.7mm(1.25")ネジ式フィルターを、または上の図中で矢印で示したさまざまな箇所に48mm(2")ネジ式フィルターを取り付けられます。

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例)ASI294MC Pro センサー保護ガラス直前に31.7mm(1.25")ネジ式フィルターを取り付ける場合。上記3機種に付属の「T2→1.25インチフィルターアダプター」を併用しています。この状態でも黒リング内側のM42メスネジが使えます。

複数枚のフィルターを交換しながら使いたい場合は、上記の箇所で毎回ネジ込みを行って着脱できます。それが面倒に感じる場合、フィルタードロワーM42Newフィルタードロワー付マウントアダプターは、フィルターをはめ込んでおく(フィルターホルダー)のみでも追加購入いただけますから、これを複数用意しておけば着脱が簡単に行えます。電動フィルターホイールは図中に記した3種類が使えます。撮影のリモート化を行う場合はこれらが便利です。

※ASI294MC Proでは、F5を切る明るい光学系で電動フィルターホイールを使う場合、ケラレの観点から31.7mm(1.25")フィルターではなくΦ31mmまたはΦ36mmの枠なしフィルターをご利用ください。

 

オフアキシスガイダーは図の位置に取り付けられます。ガイドカメラはZWO ASI462MCのような形状のものは直接ねじ込んで、内部のプリズムの差し込み深さを変えることでピントを合わせます。ASI120MM miniのような筒状のものも同様に差し込めますが、こちらは本体を奥まで差し込める分ピントに余裕があり、ヘリカルフォーカサーを併用できるのでピント合わせが楽になるというメリットがあります。

 

 

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続いてAPS-C以上のセンサーのカメラです。

 


D.    ASI2600MC Pro / 税込261,700円
ASI294MC Proよりも一回り大きなセンサーを持つ製品です。天体撮影に初めて取り組む方の多くが Canon EOS KissシリーズなどのAPS-Cデジタル一眼レフカメラをお使いであったことと思いますが、本製品はそれらと同じAPS-Cサイズのセンサーで、しかもモノクロではなくすぐにカラー画像を得られますから、ある意味ではデジタル一眼レフカメラで培った「慣れ」がかなり通用するとも言えます。Φ30mm程度のイメージサークルを持つ鏡筒であれば周辺まで良像を得られるため、フルサイズのカメラよりも対応鏡筒が多く存在しているのも魅力です。デジタル一眼レフカメラからのスムーズなステップアップをしやすい製品です。
<こんな方にオススメ>
デジタル一眼レフカメラとなるべく近い感覚で、冷却カメラに移行して撮影を続けたい

 

おまけ:冷却カメラの消費電力について

ASI2600MC Pro を SharpCap に接続し、20秒露光によるライブビューをしながら冷却した際の電流を測定しました。冷却カメラは、冷却後に温度を安定させて使用する時間が一番長いですから、その際の消費電力を主に測定しました。電源は12V DCです。また SharpCap では冷却のパワーも表示されますので、パワーと電流の関係も見てみました。冷却のシステムを考える際に参考にしていただければと思います。


24℃の室温中で測定しましたので、実際の観測中では温度等の条件が変わる可能性があります。AstroPhotographyTool でも近日中に測定してみる予定です。

 

 


E.    ASI071MC Pro / 税込193,700円
こちらも上のASI2600MC Proと同じAPS-Cセンサー機ではありますが、感度面ではより新しいASI2600MC Proに一歩譲ります。価格のアドバンテージを活かして周辺パーツをきっちり揃えたりしやすいのが魅力です。
<こんな方にオススメ>
・なるべく低価格でAPS-Cセンサーの冷却CMOSカメラが欲しい

 

★システムチャート★

APS-C機のシステムチャートです。

ZWO ASI2600MC / 071MC のシステムチャート

■これらの機種には黒色の「センサーチルトアダプター」(スケアリング調整リング)が赤色のカメラ本体に標準で取り付けられています。押しネジと引きネジを使って取り付け面の傾きを微調整できます。出荷状態ではほとんど調整する必要はないと思いますが、全系のどこかでわずかな片ボケ等が発生してしまう場合には、この部分で調整ができ便利です。

■フィルターホイールは7×36IIの他、2"(48mm)のものを使用することもできます。

 


F.    ASI2400MC Pro / 税込458,000円
35mmフルサイズセンサーを搭載した製品です。画素数は2454万画素と大伸ばしプリントにも十分で、しかも比較的ピクセルサイズが大きいためダイナミックレンジは極めて広く、恒星の輝きから星雲の非常に淡い部分まで、輝度差の大きいエリアの撮影には最適なカメラです。下でご紹介するASI6200MC Proに比べると撮影画像1枚あたりのファイルサイズが小さい(16bitFITS で約110MB→約45MB)ので扱いやすいのも魅力です。また、気流の影響を受けやすい大口径・長焦点の鏡筒と組み合わせて使う場合には超高画素のASI6200MC Proではオーバーサンプリングになってしまうこともありえるので、敢えてこちらのASI2400MC Proを使うことで価格面とデータサイズ削減の点でメリットがあります。
<こんな方にオススメ>
・扱いやすいフルサイズカラー冷却CMOSカメラが欲しい

・大口径や長焦点の鏡筒と組み合わせで銀河や星雲を狙いたい

 

★データ例★

ここで一つデータの例をご紹介します。下の画像で、左はASI2400MC Proでの画像(こちらの記事でも紹介したM31のデータです)、右はCanon EOS 6Dでの画像になります。どちらもピクセル等倍、またコンポジット後に微調整をしています。光学系や撮影時の状況が違いますので単純な比較はできませんが、6Dでのデータではダーク減算を行ってもコンポジット後に画像全体にノイズによる縞状の模様が出てきてしまいました。天体撮影時とダーク画像撮影時のカメラのセンサー温度が一致していなかったことが主要因であると思われます。他方、ASI2400MC Proのデータではこのような模様やノイズがひじょうに少なくなっています。冒頭でも述べました通り、冷却CMOSカメラの「センサー温度を一定に固定できる」という強みが活きて、正確なダーク減算が画像素材に一定の効果をもたらした例と考えることができます。

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左:TOA130NS+ASI2400MC Pro+UV/IRカットフィルター, 右:FS-60CB+Canon EOS 6D+Hαフィルタ

 

G.    ASI6200MC Pro / 税込523,500円
こちらも35mmフルサイズですが、長辺が約10000ピクセルとなる圧倒的な高画素が最大の持ち味です。一般的なカメラではアンダーサンプリング気味になりがちな鏡筒(FSQ、εなど)と組み合わせることで、これまではモザイク合成によってしか得られなかった高精細&超高画素数の撮影が可能になります。1枚あたり約110MBとなる元画像の大きさ、センサーが大きいことに由来する周辺減光の影響増大などは避けられませんが、それでもこのカメラでしか撮れないものが明確にありますので、ご用途と一致している場合には本当にお勧めです。
<こんな方にオススメ>
・シャープな短焦点鏡筒と組み合わせて、超精密なカラー写真をカラー合成無しに撮りたい

 

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★システムチャート★

フルサイズ機のシステムチャートです。

ZWO ASI2400MC / 6200MC のシステムチャート

■「センサーチルトアダプター」(スケアリング調整リング)は標準付属です。

■センサーサイズが大きいため、フィルターホイールは2インチのもののみ使用可です。

 

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まとめです!

ここまで文章がかなり多くなってしまいましたが、最後に簡単なフローチャートの形で、ZWO社のカラー冷却CMOSカメラの選び方を描いてみました。

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ZWO社のカラー冷却CMOSカメラの選び方フローチャート

 

それぞれのカメラ名の下には一言でメリットを書いてみましたが、それらのメリットや本ブログ記事でご紹介したオススメのポイント以外にも、カメラには様々な個性がございます。より具体的に、「〇〇のような望遠鏡を使っており、○○のような天体を撮影してみたいが、最適なカメラは何か?」といったご相談は是非スターベース東京までお問い合わせください。

ZWO社のモノクロ冷却CMOSカメラについても、次回以降のブログ記事でご紹介予定です。ご期待ください!