こちらの記事は前回の記事
の続きになります。
前回の記事ではiOptronの赤道儀のラインアップや選び方、夜間の集合住宅でも安心して使える静音性、独特の粗動固定機構などをご紹介しました。気軽に持ち出して星空観察を楽しむような用途ではコストパフォーマンスの高い製品群だと思います。しかし、たとえば長時間露出を掛ける場合や、搭載可能重量に収まっているとはいえ長焦点の鏡筒を載せて天体写真を撮るようなケースでは、どのくらいの性能があるのでしょうか。カタログスペックからは分からないそのような「実性能」を、本記事ではご紹介したいと思います。
今回は弊店展示機のGEM28赤道儀(光学極軸望遠鏡仕様、1.5"三脚)にタカハシ Mewlon180C鏡筒一式を載せ、天体写真撮影を行いました。
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赤道儀:GEM28赤道儀(光学極軸望遠鏡仕様、1.5"三脚。搭載可能重量約12.8kg)
光学系:Mewlon180C鏡筒 + Mフラットナーレデューサー (合成焦点距離1760mm F9.8)
カメラ:ZWO ASI294MM Pro + OPTOLONG Hα 7nm ナローバンドフィルター
その他:ミューロン用アリガタL + QHY Mini Guide Scope + QHY 5L-II-M + PHD2 Guidingでオートガイド。鏡筒側一式で約7.5kg。一方、ウェイト側は標準付属のバランスウェイトに加えて ビクセン バランスウェイトWT1.9kg を追加。
撮影対象:M42(テストを行ったのは1月上旬で、ほぼ南中していました)
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赤道儀の搭載可能重量に対して6割程度の搭載ですが、焦点距離が長く、わずかなブレでも星像に影響してしまうシビアなテストです。逆にこの組み合わせできちんと追尾ができれば、焦点距離400-800mm程度の屈折望遠鏡で撮影する分には問題ないと思います。赤道儀は事前にPHD2 Guidingのドリフトアライメント機能を使って厳密に極軸を合わせています。(所要時間 15分ほど)
◆風速1-2m/sの場合
テスト日の前半は風が弱く、撮影には好条件でした。オートガイドのグラフはこちらです。
なお中央上部に横長のアイコンが出ていますが、これは撮影場所に置いたPC(Windows10 Pro)をiPhoneから遠隔操作していたためです。RD Client というアプリを使いました。
青色は赤経軸です。ずれが生じるとただちに修正信号が伝達され、すぐに適正位置へ復帰しています。オートガイドの反応としては完璧です。赤色の赤緯軸は原理的にバックラッシュがありますので、修正方向が逆転する際(ガイドグラフの中央やや右など)には修正信号がギアに伝達されるまでに信号数回分のタイムラグが発生していることが分かります。とはいえ極軸をある程度しっかり合わせていれば、タイムラグ中にガイドずれが増大していく量はごくわずかで、実用上は問題ありません。(※適切な設定を行えばバックラッシュを減らす/無くすこともできます。)
この結果を見る限り、GEM28赤道儀のガイド信号に対する挙動は良好です。
※赤緯軸のバックラッシュはギア伝達式の赤道儀では避けられないものです。オートガイドを行った結果として星が丸く写れば問題ありません。
実際の撮影結果も見てみます。
トラペジウム付近を強拡大して厳しく見てみます。
1コマ1分の露出を繰り返したところ、この日は約75%のコマで完璧な点像が得られましたが、残りの約25%は星像がやや流れてしまいました。対応するガイドグラフを見ると、突発的にどちらかの軸でガイドグラフが「跳ねる」シーンがありましたので、それに対応しているようです。
※とても厳しく見ていますが、合成焦点距離1760mmの長焦点でこれだけしっかりしたオートガイドが出来ているということは誤解なくお伝えしたいと思います。仮に焦点距離500mm前後の鏡筒であれば、右側「やや流れた」の追尾状態であっても星像はほとんど点として見えることでしょう。個人的には、上の「やや流れた」の程度であれば「ガイド完璧」の画像と一緒にコンポジットに使用してしまいたいくらいです。
上で「ガイド完璧」としたようなコマを30コマコンポジットしました。ここではデータサイズの都合で掲載できませんが、等倍で見ても星は円形の像を保っています。風が強くなければ、GEM28 + Mewlon180C での銀河星雲撮影もできそうです。
◆風速4-5m/sの場合
テストを進めるうちに風が強くなってきました。その時のガイドグラフです。
風の強さや向きが変わるタイミングで、三脚~赤道儀~鏡筒のどこか、あるいは複数個所でしなりが発生しているようです。GEM28は比較的軽量で持ち運びしやすいのも魅力ですが、風が強い環境では限界があります。そのような厳しい状況下で天体写真撮影の成功率を高めようとすると、やはり、大きく重く頑強な(言い換えれば「一クラス大きな」)赤道儀が求められます。
ガイド信号はしっかり効いていて、やや暴れながらもガイド星は基準位置にとどまり続けているものの、やはり「跳ね」の部分で星像がいびつになってしまうので、星が完全に円形に写ったコマはほとんどありませんでした。
◆参考:風速3-4m/s 90S赤道儀の場合
その後、同じ鏡筒一式を手持ちのタカハシ90S赤道儀(他社製2軸駆動モーターへ換装)に載せて、同様のガイドテストを行いました。この時の風速は3-4m/s程度でしたが、「跳ね」もしなりもほとんどなく、ガイド信号の発せられる頻度がGEM28より格段に減っています。
これはギアの加工精度や、赤道儀と三脚がそれぞれGEM28に比べ一回り以上大きく重いことが効いていると思います。持ち運びをあまり考えなければ大きく重い赤道儀が良いですが、移動が大変で使う頻度が減ってしまっては本末転倒なので、ご用途に合わせて大きさと安定性のバランスを判断することになるかと思います。
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GEM28はベランダで使いやすい静音性や高い可搬性と操作性を持ち合わせたコストパフォーマンスの高い製品ですが、風が強い環境では、大きく重い赤道儀と同じような安定性を求めることは難しそうです。とはいえ一般的な天体写真撮影の環境(風速1-2m/s程度)であれば、長焦点の反射望遠鏡を載せてもしっかりオートガイドで撮影が出来ることが分かりました。短~中焦点の小型屈折望遠鏡を載せる場合は、ガイドエラーに対してより寛容になりますので、撮影の成功率は一層上がることが期待できます。
皆様の赤道儀選びのご参考になれば幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。