スターベース東京のブログ

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【ZWOのモノクロ冷却CMOSカメラ】 機種ごとの特徴・選び方のご紹介です

前回の記事では、ZWO社のカラー冷却CMOSカメラについての紹介記事を公開しましたが、今回はモノクロ冷却CMOSカメラについてご紹介いたします。

 

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さて、モノクロカメラを使う利点としては、やはりセンサー全体を一つの色チャンネルにあてることができる点にあります。カラーカメラの場合、ベイヤー配列とよばれるRGBパターンがセンサー上にあり、ひとつの画素はRかGかB一つの情報しか記録することができません。これをカラー画像にする際には、ディベイヤーとよばれる補完処理をするので、ほかの色チャンネルの値(たとえばRのみを記録する画素の場合ではGとBの値)は補完による推定値ということになります。その一方でモノクロセンサーの場合、すべての画素でR, G, Bの値を分けて取得することになるので、必然的にセンサー全体でR,G,Bの値を推定値ではなく観測値として取得することができます。したがって、センサーの解像度をフルに活かしたカラー写真を生み出すことが可能になるわけです。その代わりにモノクロカメラでカラー画像を合成する際には、前回のカラーカメラの記事でも述べた通り複数のフィルターを使ってそれぞれの色チャンネルを撮影する必要があるので、「撮影の気軽さ」という観点ではトレードオフということになります。遠征しても天気などの影響で一つのチャンネル画像しか取得できなかったということなど、モノクロカメラであればよく聞く苦労話かと思います。

また、高解像度な輝度(L)の画像を取得し、低解像度なR,G,Bの画像と合成することで、よりシャープな結果を目指すLRGB合成もモノクロカメラであればできますし、SAO合成やHOO合成といった、ナローバンドフィルタを用いた可視光の色合いから大きく外れた画表現にも挑戦することが可能になります。

したがってモノクロセンサーは

・遠征地で時間や労力をかけてでもセンサーの解像度をフルに活かした画を作りたい

・(天文台などに)据置きリモート撮影なので撮影時間に余裕がある

・ナローバンドフィルターを用いたRGB以外の画表現に挑戦してみたい

という場合におすすめということになります。

 

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それでは、ZWO社のモノクロ冷却CMOSカメララインアップを見てみましょう。

現在のZWO社冷却CMOSモノクロカメラのラインアップ

※ゼロアンプグローの製品はダーク減算をしなくても、ソフト的に画像処理を進めることができるという利点がありますが、仮にアンプグローが発生したとしても、ダーク減算をしっかり行えば影響を取り除く事が可能です。

センサーサイズの小さい方から、それぞれの特長とお勧めポイントをご紹介します。

 

1.ASI183MM Pro / 税込146,199円

センサーが小さいために他のカメラよりもクローズアップ撮影の効果があり、たとえばFS-60CB + レデューサーC0.72×(焦点距離255mm)と組み合わせるとアンドロメダ銀河が対角いっぱいに写ります。このようにカメラレンズや小型の屈折望遠鏡を使って主要な銀河や星雲を大写しにしたいような場合に活躍します。各ピクセルが極めて狭い間隔で配置されているので画素数Canon EOS6D(フルサイズ一眼レフ)とほぼ同じくらいあり、これはA3プリントでも十分鑑賞できるほどです。ただし各ピクセルが小さい=ピクセルごとの受光面積が小さいので、Fが暗くて長焦点のシュミットカセグレンなどよりもFの明るい短焦点εシリーズなどのほうが相性が良いと言えます。

<こんな方にオススメ>

・カメラレンズ、小型屈折望遠鏡、εシリーズなどで主要な天体を大写しにしたい

 

2.ASI533MM Pro / 税込158,000円

正方形センサーを採用したユニークなカメラです。上のASI183MM Proとはセンサー形状は異なりますが、面積は同程度になります。またASI183MM Proと比べると画素数はやや控えめ(一辺3,008画素)で、大伸ばしプリントよりはPCやスマートフォンの画面で表示させるのに向いています。画素数が少ないので画像処理時のPCへの負担が少ないのも特長のひとつです。感度の面では波長によっては後述するASI294MM Proに劣る部分があるものの、ピークQEは90%と十分です。小センサーサイズ機種のなかで唯一ゼロアンプグローなので、丁寧なダーク減算をしなくても、アンプグローによる違和感は生じないということも魅力の一つであると言えます。APS-Cよりもう少しクローズアップで星雲や系外銀河を狙いたいような場合に選択肢に入るカメラです。

<こんな方にオススメ>

屈折望遠鏡やFの暗いカセグレン式鏡筒などで、見かけの小さい天体を大写しにしたい、アンプグローを気にしたくない

 

3.ASI294MM Pro / 税込216,500円

換算焦点距離は35mmフルサイズの約1.9倍です。これは短焦点の鏡筒と組み合わせてメジャー天体を大写しにするのにも、長焦点のカセグレン式鏡筒と組み合わせて見かけの小さな天体をクローズアップ撮影するのにも使いやすい、とても汎用性の高い部類に入ります。ピークQEが90%と非常に「感度」が高いのも特長です。スペック上の解像度である4,144×2,822ピクセル(350dpiとするとA4プリント相当)は実は2×2ビニングされた数値で、明るい対象の細部を詳細に写したい場合などではビニングを解除し、センサー本来の8,288×5,644ピクセルでの撮影も可能です。ただし、その場合は撮影画像が1枚当たり約20MB→約80MBと4倍になりますので、保存や画像処理にPCスペックが求められます。

<こんな方にオススメ>

・さまざまな鏡筒と組み合わせていろいろな対象を撮りまくりたい

 

★データ例★

ここで一つデータ例をご紹介します。ASI294MM Pro+Mewlon180C+Mフラットナーレデューサーを用いて、わし星雲(M16)にある創造の柱付近を撮影したものになります。

まずはHαの画像をご覧ください。

ASI294MM ProによるHαフレーム(1分露出×600枚コンポジット後、全体)

ASI294MM ProによるHαフレーム(上の画像の中央部拡大)


星像も鋭く、なめらかな画になっていることがわかります。このようなHαの画像を主目的としてモノクロカメラを導入されるお客様も多くいらっしゃいます。

次に、左から順にHα、OIII、SIIをそれぞれ600枚、300枚、300枚コンポジットしたものです。それぞれレベル補正を加えて見やすくしています。

ASI294MM ProによるHα、OIII、SIIのフレーム(コンポジット後)

これらを単純にSAO合成(R=SII / G=Hα / B=OIII で色を割り当てるカラー化)し、画像処理を施したものが下の画像です。

Mewlon180C + Mフラットナーレデューサー + ZWO ASI294MM Pro
OPTOLONG SII6.5nm(1分×300枚) / Hα7nm(1分×600枚) / OIII(1分×300枚) をSAO合成
スタッフ自宅にて撮影 

SIIに対応するRチャンネルで赤ハロが出てしまっていることがわかります。ステライメージのスターシャープをRチャンネルにのみかけるという簡単な操作で、ある程度は改善されますが、完全に画像処理で消すにはさらに高度な処理が必要になると思われます。それぞれのチャンネルに用いた三枚の画像は別々の日に撮影しており、その日の空のコンディションに影響を受け、星像にばらつきがでてしまったものと考えられます。撮影時の空の条件だけでなく、撮影する輝線のそもそもの特徴を考えても、同質なRGBチャンネルを得ることが難しい(カラー撮影でも同質ということはありえませんが、かける時間や労力を考えるとカラー撮影の方が圧倒的に楽です)というのが、モノクロ撮影をよりハイレベルなものにしている要因であるということにはご留意いただきたいと思います。

 

4.ASI1600MM Pro / 税込187,300円

上記のASI294MM Proよりも旧世代のセンサーを搭載したカメラです。ピークQEは60%程度と感度面で最新機種に及びませんが、その分価格面でお求めやすいカメラです。こちらは電動フィルターホイールを組み込んだ便利な「ASI1600GT」という製品もラインアップされていますので、全体の価格を抑えつつシンプルな構成で気楽に使いたい方にオススメです。

<こんな方にオススメ>

・(ASI1600GT)シンプルな機材構成で気楽にナローバンド撮影などを始めてみたい

 

★システムチャート★

ここまでの4機種のシステムチャートとオプションパーツのご紹介です。

ZWO ASI183MM / 533MM / 1600MM / 294MM のシステムチャート

 

■モノクロカメラでは、観測写真などのモノクロ写真でも問題ない場合を除きフィルターホイールを用いた撮影がフィルター交換の労力が減って便利です。システムチャートでは「EFW mini」「EFW 8×1.25''」「EFW 7×36-II」の3種類の電動フィルターホイールを紹介しています。ASI294MM Pro、ASI1600MM Proでは、F5を切る明るい光学系で電動フィルターホイールを使う場合、ケラレの観点から31.7mm(1.25")フィルターではなくΦ31mmまたはΦ36mmの枠なしフィルターをご利用ください。

 

 

5.ASI2600MM Pro / 税込362,800円

APS-Cセンサーを搭載したカメラです。ピクセルピッチは3.76μmでASI294MM Pro(ビニング解除)の2.3μmほど細かくありませんので、天体のクローズアップ撮影が主目的の方には使いづらい面もあるかと思います。しかしこのカメラはピークQEが91%と感度が大変良く、しかも低ノイズ・広ダイナミックレンジなので、淡い星雲や中心~周辺で輝度差の大きい天体を撮影する時に本領を発揮します。多くの方が天体撮影に使っているデジタル一眼レフ(35mmフルサイズやAPS-C)とセンサーサイズが近いこともあり、こうしたデジタル一眼レフからまっすぐに(=撮影対象は変えずにカメラの天体適性を向上させることで)ステップアップを目指す方には特にお勧めです。カラーカメラのASI2600MC Proもありますが、こちらは単色ごとのナローバンド撮影も行いやすいモノクロ版です。

<こんな方にオススメ>

・淡い対象や輝度差の大きい星雲などを、デジタル一眼レフよりも低ノイズで綺麗に撮りたい

 

★システムチャート★

APS-C機のシステムチャートです。

ZWO ASI2600MM のシステムチャート

 

■ASI2600MM Proには黒色の「センサーチルトアダプター」(スケアリング調整リング)が赤色のカメラ本体に標準で取り付けられています。押しネジと引きネジを使って取り付け面の傾きを微調整できます。出荷状態ではほとんど調整する必要はないと思いますが、全系のどこかでわずかな片ボケ等が発生してしまう場合には、この部分で調整ができ便利です。

■フィルターホイールは7×36IIの他、2"(48mm)のものを使用することもできます。

 

6.ASI6200MM Pro / 税込585,099円

35mmフルサイズのセンサーを搭載した、ZWOのモノクロ冷却CMOSカメラとしてはフラッグシップに位置するモデルです。上記のAPS-C機 ASI2600MM Proの大センサー版として、本気のモノクロ天体撮影には抜群の適性があります。ただしセンサーが大きくなることによる分、1枚の撮影画像が110MB程度となったり(ASI2600MM Proは約50MB)、光学系の周辺像やスケアリングの影響を受けやすくなる点もありますので、安定運用しやすいASI2600MM Proとのメリット・デメリットのバランスでご判断ください。

<こんな方にオススメ>

・厳密に調整された光学系とカメラを使って、現状望みうる最高のモノクロ撮影をしたい

 

★システムチャート★

フルサイズ機のシステムチャートです。

ZWO ASI6200MM のシステムチャート

 

■「センサーチルトアダプター」(スケアリング調整リング)は標準付属です。

■センサーサイズが大きいため、フィルターホイールは2''のもののみ使用可です。

 

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まとめです!

今回も、最後に簡単なフローチャートの形で、ZWO社のモノクロ冷却CMOSカメラの選び方を描いてみました。

ZWO社のモノクロ冷却CMOSカメラの選び方フローチャート


ご覧いただければ分かる通り、APS-C未満の小センサーのラインナップが豊富になっています。また、前回同様それぞれのカメラ名の下には一言でメリットを書いてみました。それらのメリットや本ブログ記事でご紹介したオススメのポイント以外にも、カメラには様々な個性がございます。また、前回ご紹介させていただいたカラーカメラより、モノクロカメラの方が、(特にカラー合成をすることなどを考えた場合)必要な知識が多く発展的な内容になると思います。より具体的に、「〇〇のような望遠鏡を使っており、○○のような天体を撮影してみたいが、最適なカメラは何か?」といったご相談は是非スターベース東京までお問い合わせください。

前回の記事と合わせまして、ここまでご覧いただきありがとうございます!