ZWO ASI CMOSカメラには、DSO撮影などの長時間露光によるノイズの影響を抑えることができる「冷却シリーズ」と、惑星や月面の撮影、オートガイド、電子観望に適した「非冷却シリーズ」が存在します。
今回は非冷却シリーズのCMOSカメラを惑星撮影、オートガイド、月面撮影、電子観望といったシチュエーションで使う際の選び方などについて解説いたします。
冷却シリーズに関しましては、カラーとモノクロで分かれております記事をご覧ください。
惑星撮影
惑星を拡大して撮影(動画撮影→スタック処理)する場合は、各コマを適切な(気流の影響を受けにくいような短い)露出時間で撮影するために合成F25~30 / ピクセルピッチ2.9μmとなるように機材を組むのがスタンダード(※)です。例えばF7の屈折望遠鏡の場合は4倍バローレンズとの組み合わせ(合成F28)、F12のカセグレン鏡筒では2.5倍のバローレンズを併用(同F30)のようにして、カメラはASI662MCやASI585MC(ピクセルピッチ2.9μm)を使います。これが基本形になります。
ピクセルピッチが変われば望遠鏡側の適切な合成F値も変化します。例えばASI224MCやASI533MC(ピクセルピッチ3.76μm)は同2.9μmの機種よりも1ピクセルごとの大きさが縦横各約1.3倍と大きいので、鏡筒側の合成F値も約1.3倍してF32~F40くらいにしても大丈夫です。逆にピクセルピッチの細かい機種(ASI678MC / 同2.0μm)では鏡筒側の合成F値は17~20が標準的になります。
※ZWOの歴史を振り返りますと惑星撮影用として人気のあったASI290MC、ASI462MCなどが2.9μmでしたので、このピクセルピッチを基本形としております。また実際の撮影環境はユーザー様ごとに異なりますから、ここで説明しているF値とピクセルピッチの関係が、すべての方に対して成り立つわけではありません。あくまで標準的な撮影を行うためのひとつの目安としてご認識いただければと思います。
鏡筒側の合成F値をどのようにするか/できるか、が決まりましたら、上記の機種からお選びいただければ間違いありません。なおASI662MCやASI224MCはセンサーサイズが小さいので惑星を写野に導入する難易度が高まります。スタッフのお勧めは、ASI585MC(推奨合成F25~30)やASI678MC(同F17~20)です。
※口径20cm以上の大口径反射望遠鏡で惑星撮影を行う場合、上記の合成F値を実現しようとすると必然的に拡大率が大きくなります。そのような場合は大気色分散による惑星像の色ずれ量も大きくなり目立ってくるので、必要に応じてADC(大気色分散補正プリズム)を併用してください。バローレンズとセンサーの間にADCを追加することでバローレンズの拡大率が若干変化することもあるのでご注意ください。
★接続例と作例★
上記の解説をもとにした接続例を示します。TOA-130NS(F7.7)に4倍のバローレンズを組み合わせ、合成F30.8としています。このケースでは合焦のために50.8延長筒Lが2本必要になります。また、無限遠ではドローチューブをある程度繰り出すため、鏡筒の前後バランスにも注意が必要になります。
先日これらの組み合わせで撮影する機会に恵まれましたので、神奈川の自宅から木星を撮ってみました。
この日は平均的にそこそこ良いシーイングで、眼視でも木星の模様を楽しむことができました。初めての惑星撮影でしたが、ある程度模様を描出できたのではないかと思います。衛星(エウロパ)の影も木星の端に確認することができます。導入自体は、ファインダーがしっかり合っていない場合には予め高倍率のアイピースなどである程度合わせておくとやりやすいかと思います。
このような撮影だけではなく、シーイングの良い日には後述するような電子観望を惑星で楽しんでもいいかもしれません。
オートガイド
オートガイドのためのCMOSカメラは、正直なところどれでも大丈夫です。もしお手元に何らかのCMOSカメラがあれば、まずはそれを使ってお試しいただければある程度の結果が得られると思います。モノクロカメラと比べるとカラーカメラの方がガイド精度が劣ると言われますが、超長焦点の望遠鏡で極めてシビアな撮影を行う場合以外は、カラーカメラをガイドカメラとして使用しても問題無いと感じます。
(スタッフは、QHY Mini Guide Scope(焦点距離130mm)にZWO ASI290MC(カラーカメラ)を組み合わせて、Mewlon180C+Mフラットナーレデューサー(合成焦点距離1760mm)を問題なくガイドできています。)
もしガイドカメラとして新たにご用意される場合、ガイド鏡と組み合わせるのなら、お求めやすいZWO ASI120MM MiniやQHY 5L-II-Mがお勧めです。オフアキシスガイドを行う場合はセンサーの大きいZWO ASI482MCがガイド星を見つけやすいので適しています。
※ガイド鏡は、対物フードが長く、きちんとつや消し塗装されているQHY Mini Guide Scopeがお勧めです。迷光にも夜露にも強く、安心してお使いいただけます。
(QHY製品になりますが、おすすめです!)
月面撮影
月面は明るくおおむね無彩色なので、どのようなカメラでも撮影を楽しめる対象です。お手元にカメラがあれば、まずはそれで撮影を始めてみてもよいでしょう。
月面撮影用のカメラ選びで、まず決め手になるのは「月の全体像を写したいか、一部だけで良いか」です。これは簡単に計算できます。例えば焦点距離1000mmの天体望遠鏡では、像面に写る満月の大きさが直径10mmとなり、焦点距離500mmなら満月像は直径5mmで写ります。焦点距離と月面像の直径には100:1の関係があります。これで、皆さんのお手元の望遠鏡で月がどのくらいの大きさで写るのかが分かります。そうして分かった像の大きさと、カメラのセンサーサイズを見比べると、満月がまるまる写るのか、ごく一部しか写らないのか…などが分かります。
一度の撮影で月面の広い範囲をシャープに写したい場合には、解像度が高いカメラを選びましょう。センサーの大きさは、望遠鏡側の焦点距離によって適したものが変わります。例えば焦点距離2000mm前後の鏡筒を使う場合は標準的なASI585MC、短焦点の屈折望遠鏡では月面の詳細を写すためにピクセルピッチの細かいASI678MCのように選びます。ピクセルピッチが細かく、しかも超高解像度のASI183MCもお勧めです。
ここではカラーカメラばかりご紹介しました。月面はほぼ無彩色のように見えて場所ごとに微妙な色合いの差がありますから、カラーカメラでこうした色調の差を表現するのも楽しいです。モノクロ写真で最高にシャープな像を得たい場合は、大口径・長焦点の反射望遠鏡にASI174MMを取り付けて、必要に応じてPro-Planet642BPフィルターを併用するというケースもあります。
★作例★
上記の解説において「月の広い範囲を写す」ような組合せ例を示します。FSQ-85EDP に 木星撮影でも使用した ASI462MC を組合せます。バローレンズなどを用いなければ、通常の眼視観望時のように、31.7アイピースアダプターにカメラを差し込めば合焦します。この組合わせでは以下のように6割くらいの月面を写すことができます。
先日、これらの組合わせで神奈川の自宅から中秋の名月を撮影しました。
上下で2枚の画像をモザイク合成しています。月面の一部だけの写真をたくさんモザイク合成せずとも、FSQ-85EDP のシャープな光学系と組み合せ、後で Deconvolution 処理をかけることでこの程度の月面の模様を写し出すことができます。
電子観望
PCやスマホ・タブレット等の画面で、カメラに写った星雲や銀河の像を観察する手法です。肉眼ではほとんど見えない天体のカラフルな様子を写すために、モノクロではなくカラーカメラの使用をお勧めします。
電視観望で最初に考えるべきは「画角」です。非冷却タイプのCMOSカメラは小型センサーを搭載したものが多いので、通常の天体望遠鏡に取り付けると画角が狭くなってしまい、アンドロメダ銀河やオリオン大星雲のような大型の天体が画面から溢れてしまいます。そのためASI294MCやASI585MCなどセンサーの大きなカメラがあれば余裕を持ったフレーミングが可能です。 (逆に、超小型望遠鏡FMA135に小型センサーASI662MCを組み合わせればアンドロメダ銀河が画面いっぱいに写ります。このように小型の望遠鏡やカメラレンズを使って迫力ある映像を楽しめるのも、電視観望の魅力です。
概ね700nmより長い近赤外領域に感度を持つカメラでは、可視光の色合いに近づけるために最低でもIR/UVカットフィルターを併用しましょう。光害地で使用する場合は何らかの光害カットフィルターでも良いと思います。
フィルター選びの詳細については、こちらの記事をご覧ください。
非冷却CMOSカメラ 比較
最後に、現在スターベースで提供している非冷却CMOSカメラの比較表を掲載します。是非参考にしてみてください!
いかがでしたでしょうか?今回は様々な用途で利用できる非冷却CMOSカメラについて、作例などを交えながらご紹介いたしました。今回ご紹介しましたこと以外にも、わからないことや、特定の望遠鏡との組合せについてなどのご相談がございましたら、スターベース東京までお問い合わせください!