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★詳細解説★ "天頂ミラー"と"天頂プリズム"についてのご紹介です!

天体望遠鏡を使った天体観察において、よく紹介されるアクセサリーのひとつが天頂ミラー天頂プリズムです。どちらも光路を90°折り曲げて、筒先が天頂付近を向く場合でもアイピースを覗きやすい方向へ向けられる便利なアイテムですが、光路を折り曲げる原理や性質は異なります。

今回のブログ記事では天頂ミラーと天頂プリズムについて、様々な側面から比較・ご紹介します。

※今回の「天頂プリズム」は一般的な90°天頂プリズム、「天頂ミラー」は一般的な90°天頂ミラーを前提としています。

 

比較1:収差変動

天頂ミラーは平面鏡で光を反射させて光路を曲げます。一方の天頂プリズムは、ガラスブロックの中を光が通り、ブロックの斜面で全反射することで光路を曲げます。

天頂ミラー・天頂プリズムのしくみ


天頂ミラーの反射は、良質な平面鏡を正しく取り付けてある限り、原理的には鏡筒側の収差を変動させません。一方の天頂プリズムは、収束途中の光がプリズム(ガラスブロック)の中を通る過程で、色収差や球面収差バランスを変動させます。

天頂プリズムによる収差変動

このため、天頂プリズムを使用すると、そうでない場合と比べて見え方が変わります。見え方の変化は実用上感じられない場合もあるかもしれませんが、一般に、鏡筒のF値が明るいほど、また高倍率観察時ほど顕在化しやすくなります。

ただし天頂プリズムによる色分散自体が「悪」という訳ではありません。むしろプラスに働く場合もあります。例えば標準的な2枚玉アポクロマート鏡筒などにおいては、天頂プリズムを使用することで収差が調整されて、総合的な見え味が"整う"、あるいは眼視ストレール比が向上する、という場合もあります。

一方で、鏡筒単独で完璧に近い収差補正が施されている場合には、天頂プリズムを使用すると、その影響が主に焦点内外像の色付きとして感じられることがあります。

 

比較2:光量ロス

天頂ミラーはミラー面の反射によって若干の光量ロスが生じます。対して天頂プリズムはプリズムブロックへの入射・出射・ガラスの内部吸収によって光量ロスが生じます。これらの差は反射原理の差というよりも製品の仕上げによる差が影響しやすいですが、現代の良質な製品どうしであればユーザーが体感できる差はあまり無いと思っております。

光量ロス


また、天頂プリズムはガラス-空気の境界面で生じる全反射を利用した製品なので、厳密には鏡筒のF値が明るすぎる(入射光の傾きが大きくなる)と全反射が正しく機能しないこともあります。ただし通常販売されている屈折望遠鏡やカセグレン式反射望遠鏡のF値の範囲であれば、基本的にはこのことはあまり気にしなくて大丈夫です。

 

比較3:清掃のしやすさ

天頂ミラーや天頂プリズムは、アイピースを差し替えながら観察する等を繰り返しているうちに、どうしても汚れが付着します。多少のホコリが乗った程度ならばゴム球式のブロアーで簡易清掃すれば十分ですが、面そのものが汚れてしまうと見え味を低下させることがありますので本格的な清掃をした方が良いこともあります。

天頂ミラーではミラー面(通常は保護膜付きの金属メッキ面)を清掃します。これは反射望遠鏡の鏡面などと同じですから、それに準じたデリケートな取り扱いが必要です。

一方の天頂プリズムでは、プリズムの入射・出射面(反射防止コーティングを施したガラス面)を清掃します。ガラスは天頂ミラーの反射素材である金属メッキよりも硬い素材です。砂埃などが付いたままクリーニングクロスで引きずるようにしてしまうと傷がつくこともありますが、それでも総合的な清掃の難易度という点ではミラーよりもプリズムのほうが「下地が硬い」ので安心感や気軽さがあるのではないでしょうか。

ただし、いずれも基本は毎回のブロアリングであるという点は変わりません。傷を付けるリスクのある直接清掃は最小限に留めるようにしたほうが良いと思います。



比較4:長期運用

金属メッキ式の一般的な天頂ミラーでは、その寿命は主に金属メッキ膜の経年劣化に左右されます。金属メッキ膜はそのままでは酸化や腐食の影響を受けやすいため、通常は表面に保護コートを施して耐久性を高めています。ただし、清掃や保管状況によって保護コートに微細な欠陥や傷みが生じると、そこが内側の金属メッキ膜を酸化・腐食させるきっかけとなり、その後の経年に伴って天頂ミラーの見え味を低下させることがあります。

 

また、天頂ミラーの耐用年数は保管条件にかなり強く依存します。多湿環境に長期間保管したり、潮風を受けたり、夜露で湿ったまま放置したりすると、保護膜の劣化と、それに伴う金属メッキ面の劣化が進みやすくなります。汚れやカビも劣化を早める要因です。条件が厳しい場合には、比較的短期間で表面の経年変化が進み、見え味の低下を感じることもあるかもしれません。

大雑把に申し上げれば、天頂ミラーは「反射原理そのものが経年劣化しうる」ものです。

左:状態の良いミラー 右:劣化したミラー

一方、天頂プリズムの反射原理である全反射は、ガラスブロックの形状と素材そのものに由来する現象です。表面に施されたコーティングが劣化してもガラスブロックの形状が維持されている限り、"光を反射させる構造そのものが経年で傷んでいく"ことはありません。このため反射機能自体の長期安定性という点では天頂ミラーよりも有利といえます。

天頂プリズムで経年変化の対象になるのは、主に入射面・射出面に施されたコーティングや表面状態です。これらのコーティングは一般に耐久性が高く、金属メッキ式ミラーに比べると経年劣化は問題になりにくい傾向があります。そのため、通常の使用環境であれば、天頂プリズムは長期にわたって安定した性能を維持しやすいといえるでしょう。

ただし、天頂プリズムもまったくメンテナンスフリーというわけではありません。表面に汚れや水膜、カビが生じると、散乱や透過ロス、コントラスト低下の原因になります。このため天頂プリズムも天頂ミラーと同様に、丁寧に保管することが重要です。

 

このように考えると、長期的に安心して使い続けやすいのは、どちらかといえば天頂プリズムだといえそうです。ただし、天頂ミラーでも後述する誘電体コートBBHSを採用した製品では耐久性が大きく改善されており、一般的な金属メッキ式ミラーとは事情が異なります。

 

比較5:散乱光や迷光について

高倍率眼視において、例えば惑星本体の周り(宇宙空間)の暗さがストンと真っ黒になるかどうかという点は、眼視を極めたい方にとって重要かと思います。これは天頂ミラーや天頂プリズムの面精度だけでなく、表面粗さ、コーティングの質、ホコリの付着、内部つや消し処理などが影響します。散乱光の少ない製品として、経験的に良質なプリズムや銀系ミラーが好まれることがあるようですが、良質な誘電体ミラーも非常に優秀のようです。実際の見え味は、製品の方式の差以上に、製品の品質や面の清浄度、そして観察者の好みなどに左右されるのではないかと思われます。

天頂ミラーや天頂プリズムの内面つや消し処理については、価格が見合えば、しっかりつや消し処理された製品を選ぶと安心です。ただし鏡筒側差し込みスリーブの先端(フィルターネジ部)だけつや消し処理されていなくても、問題になりにくいことがほとんどなので、気にしなくて大丈夫そうです。

 

その他見え味に影響する要因

天頂ミラーや天頂プリズムも光学面をもちますから、鏡筒やアイピースと同様に「温度順応」が必要です。ただし、鏡筒と同時に外気順応をスタートさせておけば、これはあまり気にしなくて良いと思います。

 

特筆すべき製品

上記で紹介していないタイプの製品もいろいろありますが、ここでは「誘電体コート」「バーダーBBHS」「ターレットレボルバー」をご紹介します。

誘電体コートは通常の金属メッキの天頂ミラーと異なり、多数の誘電体膜をミラー面へ蒸着して高い反射率を得るものです。この誘電体膜は非常に硬いため、誘電体コートの天頂ミラーは、一般的な天頂ミラーよりも清掃耐性・経年劣化ともに優れた特性を示します。

BBHS(Broad Band Hard Silver)はバーダープラネタリウム社の技術です。銀メッキを活用した高い反射率と、誘電体保護による耐久性向上を両立しています。

※BBHS天頂プリズムは全反射面にBBHS処理を施した製品です。入射・出射面は反射防止コーティングです。

バーダープラネタリウム BBHS 2インチ天頂ミラー

ターレットレボルバーは複数のアイピースを取り付けておき、見口部分を回転させることで簡単にアイピースを切り替えて観察できる製品です。タカハシでは四頭ターレットレボルバー31.7Dという製品を販売しています。これは鏡筒側が50.8mm差し込み、アイピース側は31.7mm差し込み×4か所で、光路を折り曲げるのには天頂プリズムが使われていますから、上記でご紹介した特性は天頂プリズムと同様です。

四頭ターレットレボルバー31.7D

 

●タカハシ鏡筒の場合の選び方

それではタカハシの代表的な鏡筒について、天頂ミラーと天頂プリズムをどのように選べばよいか、個別に見ていきましょう。この記事では簡単のため、いずれもタカハシ製品の使用を想定しています。天頂ミラーは50.8mm差し込みの「天頂ミラー50.8」、天頂プリズムは31.7mm差し込みの「天頂プリズム31.7MC」です。

 

●FC/FSシリーズ

2枚玉フローライトアポクロマートの収差特性を鑑みると、色分散を生じる「天頂プリズム」はむしろ"芯のある星像"を得るためにプラスに働くことも考えられます。

31.7mm差し込み中心で軽快に使うなら、システムチャート通りに天頂プリズムをお使いいただくのがベターです。システムチャートに天頂プリズム31.7MCしか適合を示されていない鏡筒は、タカハシが「天頂プリズム31.7mmを使うことで良い見え味をご堪能いただける」と考えているものとご認識ください。

一方で50.8mm差し込みに対応した鏡筒で超低倍率や広視界を楽しみたい場合には、天頂ミラーを使うのも良さそうです。この場合は天頂ミラーなので、鏡筒本来の収差特性をなるべく変えないまま、眼視をお楽しみいただけます。

※50.8mm差し込みが標準でない鏡筒の場合、このようなアダプターを使えばドロチューブ後端を50.8mmスリーブ化できますが、ピントが合わない場合もあります。ご不明な点はお問い合わせください。

FS-60CB鏡筒 + 天頂プリズム31.7MC の接続例

●TOA/TSAシリーズの場合

鏡筒単体での収差補正がきわめて優れている鏡筒には、色分散を生じない天頂ミラーが第一候補になります。様々な用途へ安心してまんべんなく使えます。

ただし、多少の色付きが生じても「高倍率観察時に散乱光が減る可能性を試してみたい」という場合は、天頂プリズムをお試しいただくのも楽しそうです。

TSA-120鏡筒 + 天頂ミラー50.8 の接続例 (天頂ミラー・ファインダーは旧仕様です)

●FSQシリーズの場合

FSQシリーズはFが明るく、鏡筒単体で中心から周辺まで収差補正が完成しています。鏡筒の性格から考えると、まずは天頂ミラーを第一候補としていただくのが良さそうです。

FSQ-80FC 鏡筒 + 天頂ミラー50.8 の接続例

●Mewlonシリーズの場合

鏡筒単独でほぼ完璧な中心像の収差補正が施されています。一方、鏡筒のFが暗めなので、天頂プリズムを使用した場合でも色分散の影響は小さめです。

31.7mm差し込みしか使わないなら天頂プリズム、50.8mm差し込みのアイピースを使ったり、焦点内外像まで色付きを生じさせたくない場合は天頂ミラー、という考え方で良さそうに感じます。

 

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このように考えますと、タカハシのシステムチャートで紹介されている組み合わせは、とても合理的な検討に基づいていることが分かります。もしタカハシ以外の天頂ミラー/天頂プリズムを使用する場合は、光路長をチェックして、問題なくピントが出るかどうかを事前にご確認ください。また、タカハシ製品以外で鏡筒側へ差し込むスリーブが長い場合は、鏡筒内壁や対物レンズの後端に干渉しないかもご注意ください。

 

天頂ミラー・天頂プリズムの選び方について、ご不明な点がありましたら、お気軽にお問い合わせください!皆様の眼視ライフが一層充実したものになることを願っております。

 

※2021年の記事ですが、こちらもあわせてご覧ください!

starbase.hatenablog.jp