先日、タカハシから発売された「天頂プリズムコレクター」。
コレクターレンズといえば、天体望遠鏡の「周辺像を補正」するものや、双眼装置の「光路長を補正(短縮)」するものがあります。しかし、本製品はそれらとは異なり、天頂プリズムを使用した際に「変動した収差を補正」して鏡筒本来の見え味を取り戻すという、少し特殊な立ち位置の製品です。
「どういうこと……?」「何が良いの……?」と疑問に思われる方もいらっしゃることでしょう。
今回のブログ記事では、天頂プリズムを使用すると鏡筒の見え味がどのように変化するのか、そして天頂プリズムコレクターがどのような役割を果たすのか、その仕組みとメリットを詳しくご紹介いたします。

「天頂ミラー」と「天頂プリズム」の違い
天体望遠鏡で天頂付近の天体を観察するとき、接眼部をそのまま覗こうとすると、顔が真上を向く無理な姿勢になってしまうことがあります。そこで、光路を約90度折り曲げて楽な姿勢で観察できるようにするのが天頂ミラーや天頂プリズムです。
以前の記事では、天頂ミラーと天頂プリズムの仕組みや、それぞれの特性について詳しくご紹介しました。
製品ごとに多少の違いはありますが、両者の基本的な性質は次のように整理できます。
- 天頂ミラーは、鏡筒がもともと持っている収差に影響を与えにくい一方、多くの場合で反射面の状態や清掃、長期的な経年変化に注意が必要。
- 天頂プリズムは、反射にガラス内部の全反射を利用するため長期安定性や清掃性に優れる一方、収束光が厚みのあるガラスを通過するので収差バランスを変化させる。
ここで大切なのは、天頂プリズムによる収差変動が必ずしも悪い方向へ働くわけではないということです。鏡筒がもともと持っている収差と、天頂プリズムによって加わる収差がうまく打ち消し合い、天頂プリズムを使用したほうが良好な見え味になる場合もあります(FS-60CB鏡筒など)。
一方で、色収差の生じない反射望遠鏡や高性能な屈折望遠鏡など、鏡筒単体ですでに高度な色収差補正が施されている場合には、天頂プリズムを使用することで色収差が増大するように見えることがあります。低倍率で星雲や星団を眺める場合には気にならない程度でも、月面や惑星、重星などを高倍率で観察すると、ベストピントの像の鋭さや焦点内外像の色づきの変化として気づくことがあるでしょう。
この収差変動をできる限り打ち消し、天頂プリズムを使用しながら、直視時に近い収差状態で観察できるように開発されたのが天頂プリズムコレクターです。
天頂プリズムコレクターの役割
天頂プリズムコレクターはタカハシの「天頂プリズム31.7MC」の鏡筒側先端へねじ込んで使用する補正レンズです。

天頂プリズム31.7MCによって生じる色収差の変動とは反対方向の収差を、コレクター側であらかじめ発生させます。天頂プリズムと天頂プリズムコレクターの収差が互いに打ち消し合うことで、天頂プリズムを使用していない直視時に近い収差状態へ回復します。
遠景による実写比較
FCT-65D鏡筒 + TOE-2.5mm 58° + 天頂プリズム31.7MC の組み合わせで、アイピースにスマートフォンのカメラレンズを手持ちで近づけ、焦点像および焦点内外像を撮影しました。


天頂プリズムコレクターを使わない場合では、天頂プリズムの作用によって、焦点内像で青、外像で赤色のにじみが点像の外側へ見られます。焦点像では色付きはあまり感じませんが、青も赤も「ややピンボケ」で、緑色系だけしっかりピントが合っている状態なので、星像のキレ・シャープさ・ヌケのよさという意味では直焦点時と差が生じています。
しかし天頂プリズムコレクターを併用すると、これらがほぼ取り除かれて、焦点内外像ともに色付きをほとんど感じません。FCT-65D鏡筒の直焦点に近い、すっきりとした印象です。焦点像もキリリとしています。
この結果はメーカー資料と一致します。こちらをご参照ください。

上記のスポットダイアグラムは点像(恒星像)をイメージしたシミュレーションですが、月や惑星といった面積を持つ対象についても効果を感じられます。以下は先ほどと同じ撮影機材で、遠方の避雷針(支柱)を撮影したものです。背景(青空)と対象(柱)の明暗の境界に色づきが見られますが、天頂プリズムコレクターを使用すると大幅に改善されます。

月や惑星を観察する際は、いきなりベストピントになっているのではなく、実際には内側から、あるいは外側からピントを合わせていきます。そのとき、背景と対象の明暗境界に色づきが感じられるのとそうでないのとでは、心理的な「気持ちよさ」にも差があると思います。天頂プリズムコレクターは、焦点像の差だけでなく、こうした「天体観察体験そのもの」の質を向上する効果もありそうです。
天頂プリズム31.7MCと天頂プリズムコレクターの組み合わせは、
「鏡筒本来の見え味へできる限り近づけながら、天頂プリズムの長期安定性や扱いやすさも活かしたい」
という方に向いた選択肢なのです。
タカハシのダイアゴナルを目的別に整理すると
天頂プリズムコレクターの発売によって、タカハシの眼視用ダイアゴナルは、目的に応じて次のように選べるようになりました。
(1)31.7mmアイピースを使用し、適合鏡筒の収差状態を直視時に近づけたい
天頂プリズム31.7MC+天頂プリズムコレクター
(2)31.7mmアイピースを使用し、天頂プリズムによる収差変動を光学的に活用したい
天頂プリズム31.7MC
(3)50.8mmアイピースも使用し、鏡筒本来の収差バランスをなるべく変えたくない
天頂ミラー50.8
(4)複数の31.7mmアイピースを素早く交換しながら観察したい
四頭ターレットレボルバー
これらは単純な性能上の上下関係があるわけではなく、目的に応じて適したものをお選びいただければと思います。ご検討に際してご不明な点がありましたらお気軽にお問い合わせくださいませ。
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現品の様子をご紹介します
ここからは実際に入荷した天頂プリズムコレクターの様子をご紹介いたします。
商品はこのような梱包状態で入荷しました。

緩衝材を取り除くと、これまでのタカハシ製品ではあまり見られなかった、透明なケースが姿を現します。

裏側も見てみましょう。

側面から見ると、コレクターが透明なフィルムに挟まれ、ケースの中央に浮いているように保持されていることが分かります。

輸送中にコレクターが動きにくく、レンズの縁や光学面へ直接衝撃が加わりにくい梱包です。
光学面もフィルムによって両側から覆われているため、工場出荷時のきれいな状態を保ったままお届けできそうです。
前後用のポリキャップは付属しませんが、ケースには3方向に開き止めのツメがあり、保管ケースとして繰り返し使用できます。
天頂プリズム31.7MCへ取り付けた状態
天頂プリズム31.7MCへ取り付けた状態がこちらです。

コレクターを天頂プリズムへ取り付けたままキャップをする場合は、別売の「ポリキャップ」の【30mm】が適合します。
ケースへ戻さず、天頂プリズムへ取り付けたまま運用する方は、ホコリや接触から光学面を守るため、キャップの併用をおすすめします。
鏡筒側のメスネジについて
天頂プリズムコレクターの鏡筒側にはメスネジが切られており、ネジ規格上は一般的な31.7mmフィルターを取り付けられます。
ただし、フィルター側のオスネジが長い場合はコレクター内部のレンズ押さえ部品などへ接触し、レンズを圧迫する可能性があります。この位置へのフィルター取り付けは、弊店の立場からは積極的にお勧めするものではありません。
ご使用前にご確認ください
●鏡筒側への差し込み部分が長くなります
天頂プリズムコレクターを取り付けると、天頂プリズム31.7MCの鏡筒側スリーブは、コレクターを含めて約38mmの長さになります。
通常の接続では問題になりにくい長さですが、鏡筒側スリーブの奥にコンバージョンレンズなどが配置されている場合は、相手方との物理的な干渉にご注意ください。

※オルソエクステンダー2×、オルソエクステンダー4×は、それぞれシステムチャートどおりの順序で接続すれば、天頂プリズムコレクターと干渉しないことを当店で確認しています。2×オルソバローに対しては差し込めません。
●取付に際して
天頂プリズムコレクターはM28.5ネジで天頂プリズムへねじ込みます。市販の天頂プリズムのうち、鏡筒側先端にM28.5のフィルターネジが切られている製品には、物理的に取り付けられる場合があります。しかし天頂プリズムコレクターは、タカハシの天頂プリズム31.7MCに使用されているプリズムの材質や光路長、スリーブとプリズムの位置関係に合わせて設計されていますので、確実な効果を得るためにはタカハシ製の天頂プリズム31.7MCと組み合わせてご使用くださいませ。
まとめ 天頂プリズムと天頂ミラーの間に生まれた新しい選択肢
昨今の天体望遠鏡市場では撮影用機材が注目される機会が増えていますが、接眼レンズを覗き、天体から届いた光を自分の眼で確かめる眼視観察には、撮影とは異なる楽しさがあります。
タカハシでは天体望遠鏡づくりにおいて、「天体望遠鏡の第一の性能は眼視」という原点を大切にして、「直視での見え味」を基本的な主軸としています。今回発売した天頂プリズムコレクターは、天頂プリズム使用時であっても直視のような見え味を得られるように、タカハシが新たにご用意した答えです。ぜひご検討ください!




































































