6月も中旬に差し掛かり、もうじき夏至…夜が短いのは残念かもしれませんが、いよいよ夜半過ぎに木星と土星が輝く季節になりましたね!今回はこちらのセット
FC-100DC+経緯台SBセットII を使って、これらの惑星をじっくり眺めてみました。手動式の経緯台なので付属の6×30ファインダーを覗きながら天体を導入し、追尾は微動ハンドルを回して行いました。
※覗きやすくするために 天頂プリズム31.7MC を併用し、私(新宿)の持っているアイピースから4本を選んで使いました。FC-100DCは焦点距離740mmなので、倍率は740をアイピースの焦点距離[ミリ]で割った値になります。
※夜半過ぎから始めて薄明開始頃まで夢中で望遠鏡をのぞいていたら、足首などの露出した場所をたくさん蚊にさされてしまいました…虫除け対策はしっかり行ってから星空をお楽しみください!
※どの倍率でも
・遮光効果のある布を被って覗く
・少なくとも1分以上は対象を凝視する
ことで、惑星の場所ごとの色の違いや細かい模様が格段に良く見えるようになりました。前者は特に有効です。寒い時期はアイピースが曇ったりとデメリットが目立ちますが、これからの暖かい季節は、周囲に怪しまれない程度に、遮光布を被ると良く見えます。
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■タカハシ LE 18mm (41倍)
「口径ミリ数の半分程度」となる低めの倍率です。木星は本体に縞模様があることとその向き、ガリレオ衛星の存在が分かります。土星には環がきちんと見えます。ただしどちらも小さく、しかも惑星面は明るすぎて色合いがあまりよく分かりませんでした。惑星観察を楽しむという倍率ではないようです。
今回は市街地での観察だったのでそのように感じましたが、もし天の川の見えるような夜空の暗いところへ持ち出してこのアイピースを使ったならば、背景に無数の恒星が散らばる中に惑星が存在感を持って浮かび上がり、煌びやかで心打つ景色になったのではないかと思います。
■ニコン NAV-7SW (106倍)
「口径ミリ数の1倍程度」で望遠鏡のシャープさが活きる標準的な倍率です。今回は100倍程度で、この状態では"ピンと伸ばした手の小指の幅"が、木星の直径や土星の環の直径とだいたい同じくらいになります(これを基準に他の倍率での見え方もイメージできるので便利です)。木星はもちろん、それよりも暗い土星でさえ視野の中ではとても明るく見えました。惑星像はキレッキレ、ゾクゾクするほどシャープで、非常に心地よい解像感を堪能できました。
土星の環のカッシーニの間隙が環を一周していることが最も分かりやすかったのが、この倍率です。
■タカハシ TAK-3.3UW (224倍)
「口径ミリ数の2倍程度」となり、良質な屈折望遠鏡ではこの辺りが高倍率眼視に推奨されることの多い倍率です。FC-100DCではこの倍率を掛けても望遠鏡側の解像度が眼の分解能と拮抗している感じで、相変わらずシャープで気持ちのよい見え味です。100倍程度の時に比べ、惑星面の明るさがいくぶん落ち着きますので、その表面模様が見やすくなります。木星の縞模様はうじゃうじゃと見え、土星は緯度ごとの色合いの違いがよく分かります。惑星面や環の詳細が一番よく見えると感じたのはこの倍率です。
今回は手動式経緯台に載せて使いましたが、TAK-3.3UWの90°という見かけ視界の広さに助けられたのか、追尾が大変という感覚は全く起きませんでした。見かけ視界40°程度のアイピースでは、追尾のために微動ハンドルを回す回数が増えるので、複数人で代わる代わる覗くような用途ではやや使いにくいかもしれません。
■ビクセン HR1.6mm (463倍)
もともとTOA-130N用に購入していたアイピースで、TOA-130Nでは625倍となりますが私は実用可能と思って日々使っています。今回は、これをFC-100DCに取り付けて覗きました。
倍率が高いので惑星面が暗くなり、場所ごとの色の違いが分かりにくく、しかも200倍程度の時と比べるとぼやけた像になってしまいます。しかも眼球に付着したホコリなどの影が網膜に投影されるので、それを避けながら天体を見る格好になりました。しかしそれでも、覗いた時の「迫力」は桁違いで、圧倒的なリアリティを感じます。200倍程度では地球に立った自分が受動的に惑星像を見ている印象でしたが、この超高倍率ではそれまで地上にいた自分の「足が浮く」感覚、木星や土星が自分と同じ宇宙に確かに存在していて、手を伸ばせば今にも届きそうな感覚、が感じられました。これは超高倍率でしか得られない体験だと思います。FC-100DCは小型軽量ながらシャープなフローライト2枚玉で、463倍にも耐えてくれました。
しかし手動追尾がなかなか大変でした…(無理ではありませんが)。こうした超高倍率を使い場合には、できるだけ自動追尾のできる架台に載せたいところです。
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以上はすべて私の感想ですが、FC-100DCでの惑星観察では
・50倍前後…惑星用というよりも月面の全体像を見たりするのに使いたい
・100倍前後…キレッキレの像を楽しむのに好適。手動架台に載せて多人数で使いやすい
・200倍前後…惑星面の様子がもっとも分かりやすい
・400倍前後…圧倒的なリアル感、臨場感がある
と感じました。
ちょうど本日FC-100DZの受注が再開となりました。青ハローをFC-100DCやFC-100DFの約半分に減らしたFCシリーズの完成形と言える製品ですが、FC-100DC(DFもレンズは同じ)でも、上記のように惑星観察を十二分に楽しめますので、この夏の惑星シーズンに導入をご検討ください!ただし月面のようなさらに明るい対象を眺める場合には、FC-100DZの青ハローの少なさが活きて、並べて見比べると差が出ると思います。
私は「過剰倍率派」で、HR1.6mmで見た臨場感あふれる惑星像に歓喜しているのですが、どなたでも快適にシャープな像を楽しめるのは、やはり口径ミリ数の2倍程度の倍率までではないかと思います。現状のタカハシアイピースではTOE-2.5mmが最高倍率なので、たとえばTOE-4.0mmやAbbe 4mm、TOE-3.3mmなどをお使いの方で過剰倍率眼視をしてみたい場合は、31.7 2×バロー のような良質なバローレンズを併用するのもありではないかと思います。
長くてとりとめのない文章にここまでお付き合いくださり、ありがとうございました!