スターベース東京のブログ

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あなたはどれを選ぶ!? 撮影用・電視観望用フィルターまとめ

 

現在は国内外多数のメーカーから様々なフィルターが発売されており、どのような場面でどのフィルターを選べばいいのか迷われている方もいらっしゃると思います。

今回のこちらの記事では、当店で扱っている多種多彩なフィルターに関して、より詳細なフィルター選びの情報と、注意点をまとめました。

以前紹介した6種のフィルターによる撮り比べ結果はこちらからご覧ください ↓↓↓

【実写比較】

starbase.hatenablog.jp

 

それぞれのフィルターの紹介に移る前に、まずはフィルター選びの前提となる、基本的な知識の整理をしておきましょう。

 

輝線星雲が発する波長

アメリカ星雲、オリオン大星雲、ばら星雲などの赤系の星雲や、網状星雲や惑星状星雲など赤+青緑系の星雲は輝線星雲と呼ばれ、ある特定の波長のみの光で輝いています。

輝線星雲の発する波長として特によく知られているのは、SII (エスツー)、Hα (エイチアルファ)、OIII (オースリー)です。
SII、Hα、OIIIそれぞれの波長で撮影・合成したばら星雲は以下の画像です。

図1 ばら星雲 RASA8 + 294MM + 7nm ナローバンドフィルター( SII,Hα,OIII )

 

フィルターグラフの見かた

図2 フィルターグラフの例

図2をご覧ください。黒の線で描画されているのがフィルターの透過曲線です。透過率が 1.0 に近いほどその波長の光をよく透過し、0 に近いところではその波長の光がカットされていることを表します。このグラフからは、このフィルターは430~440, 540~560, 570~590, 620~630 nm 付近の波長の光をカットし、それ以外の光はおおむね90%以上透過する、ということが読み取れます。

また、図中の赤、緑、青で塗られた領域は、カラーカメラのR・G・Bそれぞれの画素が捉えられるおおよその波長帯を示しています。例えば、Hα線はRの画素にのみ記録されますが、GとBの画素にはほとんど記録されません。

 

図3 フィルターの透過波長幅とコントラストの関係

続いて、こちらの図3をご覧ください。

先ほど言及した通り、天体は特定の波長の光を発して輝いています。これは逆に言えば、特定の波長の光さえ捉えれば、他の波長のデータを取得せずとも輝線星雲を描き出すことができる、ということです。

輝線星雲の情報はごく狭い波長域に集中しているため、カメラでの取得データのうち天体が放つ輝線のデータの割合が大きいほど、天体のコントラストは上がります。
具体的な目安として、フィルターの透過波長の幅が1/2倍になると、コントラストはおおむね2倍に高まると考えて良いでしょう。

 

 

前提知識を頭の片隅においていただいて、本題のフィルター選びに関する内容に移りましょう。

現在、当店で扱っているフィルターを大きく以下の4つに分類してご紹介いたします。

  1. カラーバランス重視型
  2. 天体の主要輝線重視型
  3. 赤外線領域特化型
  4. ナローバンドフィルター

フィルターの特性だけでなく、価格、フィルター径のラインアップにもご注目いただき、今後のフィルター選びの参考にしていただけると幸いに思います。

 

1.カラーバランス重視型

古くから光害の成分として挙げられているNaやHgなどの輝線をカットしつつ、天体の光をしっかりと捉えることができるフィルターです。

透過するR, G, B 光量のバランスが良いため、星の色ずれや背景のカラーバランスが崩れにくいという特徴があります。

図4 カラーバランス重視型のフィルター群

①LPR-Nフィルターは、ざっくり申し上げれば天体のコントラストを1.5倍ほどに強める効果があります。銀河や反射星雲のようにさまざまな波長で光っている天体に対しても、全体的なカラーバランスを保ちつつ、適度なコントラスト向上効果が得られます。夜空の暗い場所での撮影用に常用してもよさそうです。
②Comet BPはLPR-Nよりも効果の強いフィルターです。市街地から少し離れたような中程度の光害地で使うには、色再現性と強調効果のバランスが良いのでお勧めです。
③Astro LPR Type1はComet BPと似た特性ですが、全体的に若干透過率が低いようです。数量限定でお買い得です。
④IR/UVカットフィルターは可視光全体を透過します。近赤外まで感光してしまうカメラで、可視光のみに透過波長を制限したい場合(惑星撮影など)にご使用ください。

 

商品ページへのリンクはこちらです。↓↓↓

LPR-N

Comet BP

Astro LPR Type1

IR/UVカットフィルター

 

 

2.天体の主要輝線重視型

天体の主要輝線であるSII , Hα , OIII、Hβなどの波長のうち、一部または全てを重点的に透過するフィルターです。光害を大幅に除去し、輝線星雲の光を選択的に透過するので、都市部での星雲撮影に有効です。

ただし、フィルターによっては背景のカラーバランスが崩れやすくなる傾向がありますのでご注意ください。

※使用する鏡筒のF値に応じて半値幅を適切に選択する必要があります (後述)。

図5 天体の主要輝線重視型のフィルター群 ( 透過幅広め )

図6 天体の主要輝線重視型フィルター群 ( 透過幅狭め )

⑤→⑥→⑦→⑧→⑨の順に光害カット効果が強くなります。
⑤Quad BPは赤と青緑の2箇所の透過幅が同程度で、このようなフィルターの中では比較的カラーバランスを取りやすいのが魅力です。電視観望のようにリアルタイムで観察するケースでは、画面の色が赤や青緑に寄ってしまう現象が起きにくいので重宝します。
⑥Duo BandはQuad BPと比べるとHαに対するコントラストが大きく向上します。赤い星雲を詳細に描写したい場合はお勧めです。ただしグラフのとおり、撮って出し状態では全体的に青緑色に色合いが偏ります。後処理で補いましょう。
⑦L-eNhanceはDuo Bandよりも色合いの偏りが少ないのが特長です。

⑧Dual BPはL-eNhanceよりもさらに青緑系の透過幅を狭くして、色合いの偏りを防ぎつつコントラストを向上させる製品です。東京都内などの超光害地でも輝線星雲を描写できる能力を持ちます。
⑨L-eXtremeはDual BPのおおよそ2倍の強調効果を持つ大変強力なフィルターです。カラーカメラでナロー撮影をする、いわゆる「ワンショットナローバンド」の用途としては、ほとんど万能な製品です。自宅撮影でも輝線星雲のごく淡い部分まで写せます。

 

【 L-eXtremeを用いた作例 】

網状星雲(西側~中央) FC-100DC + 76Dレデューサー + L-eXtreme + ZWO ASI2600MC Pro 

 

商品ページへのリンクはこちらです。↓↓↓

Quad BP

Duo Band フィルター

L-eNhance

Dual BP

L-eXtreme

 

 

3.赤外線領域特化型

赤外線波長の光は空気中での透過率が高く、大気揺らぎの影響を受けにくいという特徴があります。シャープネスが要求される月の撮影や銀河、惑星のモノクロ撮影に適します。

また、光害の影響を受けにくいため、フィルターとカメラの組み合わせによっては都市部でも天の川の撮影が可能です。

※カラーカメラでも、R,G,B画素のすべてで近赤外域に感度を持つような場合は、カメラを「モノクロモード」で使うことで問題なくモノクロ撮影が行えます。(詳細はそれぞれのカメラの商品ページをご覧ください)

図8 赤外線領域特化型のフィルター群

「642」は可視光・近赤外のほとんど境界のあたりから広い範囲の波長を透過するので、銀河のような淡い対象の撮影には「642」が向いています。逆に、そもそもが明るい月(月面)の撮影では光量よりもシャープさが重要になってくるので、大気の影響をより受けにくい「742」がお勧めです。

 

【 Pro-Planet 642BP を用いた作例】

NGC4631 くじら銀河 Mewlon180C + Mフラットナーレデューサー + Pro-Planet 642BP + ZWO ASI294MM Pro  ※神奈川県川崎市にて撮影

【 Pro-Planet 742BP を用いた作例】

月面(8コマモザイクから切り出し) Mewlon180C + ZWO ASI174MM + Pro-Planet 742BPフィルター

 

商品ページへのリンクはこちらです。↓↓↓

Pro-Planet 642BP フィルター

Pro-Planet 742BP フィルター

 

 

4.ナローバンドフィルター

天体の主要輝線であるSII , Hα , OIII などの波長のうち、ひとつだけを選択的に透過するフィルターです。基本的にはモノクロカメラでの撮影で、多彩なフィルターワークを楽しむことができます。

※使用する鏡筒のF値に応じて半値幅を適切に選択する必要があります (後述)。

 

【作例】

ナローバンド単色(モノクロ)の例

オリオン大星雲 FS-60CB + FC/FSマルチフラットナー1.04× + 7nm Hαフィルター + ZWO ASI294MM Pro ※神奈川県川崎市にて撮影

SAO(SHO)合成の例

M16 想像の柱 Mewlon180C + Mフラットナーレデューサー + 7nmナローバンドフィルター(R:SII / G:Hα / B:OIII) + ZWO ASI294MM Pro

 

AOO(HOO)合成の例

M27 あれい状星雲 Mewlon180C + Mフラットナーレデューサー + 7nmナローバンドフィルター(R:Hα / GおよびB:OIII) + ZWO ASI294MM Pro ※神奈川県川崎市にて撮影

 

デジタル一眼レフカメラでの撮影

オリオン大星雲~馬頭星雲 FSQ-85EDP + 7nm Hαナローバンドフィルター + Canon EOS6D(SEO-SP4改造) ※神奈川県川崎市にて撮影

冷却CMOSカメラでなくても、天体改造された一眼レフカメラでナローバンド撮影を楽しめます!ただしノイズ面では冷却CMOSカメラが有利です。

 

商品ページへのリンクはこちらです。↓↓↓

ナローバンドフィルター(7nm)

 

 

※半値幅の狭いフィルター使用時の注意

F値の小さいεシリーズやFSQシリーズ(レデューサー併用時)などの望遠鏡では、有効口径の「へり」の部分から入射した光は大きな角度をもってフィルターへ届きます。すると目的の波長よりも短い波長成分を透過してしまう「ブルーシフト」現象が起こります。

図7 ブルーシフトの概念図

 

このように、F値の小さい望遠鏡などに半値幅の狭い干渉フィルターを組み合わせると、有効口径の中央部から入射する光は正しく目的の波長を透過できますが、周辺部から入射する光では星雲の情報をほとんど含んでいない波長を透過することになってしまい、せっかくの「明るい鏡筒」のアドバンテージを発揮できなくなってしまいます。

以上のことから、F値の小さい光学系では極端に半値幅が狭いフィルターは避けた方が無難と言えます。市販の多くの天体望遠鏡では半値幅が6~7nmのフィルターを使えば安心です。逆にミューロンシリーズやF値の大きな屈折望遠鏡では、半値幅が3nmなどといった超強力なナローバンドフィルターを使うメリットがあります。

※ε-180EDやRASAシリーズ等をお使いの場合はご相談ください。

 

 

お使いの鏡筒、カメラ、目的などを添えてご相談頂けましたら、スタッフが皆様に合ったフィルターをご提案いたします。→お問い合わせフォームが開きます

最後までお読みいただきありがとうございました!

 

 

※この記事で使用した透過率のグラフは、各メーカー様が公開しているグラフを比較のため当店でトレースして作成したものです。